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佐藤 信行 さん
アジア初――韓国で「外国人地方参政権」実現

<プロフィール>
佐藤 信行さん
在日韓国人問題研究所 所長

1 アジアでは初めて

韓国国会は二〇〇五年六月三〇日、公職選挙法改正案を可決し、永住資格を持つ外国人に「地方選挙権」を認めた。

これは、選挙権だけとはいえ、アジアで初めての「快挙」である。なぜなら、諸外国ではアイルランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランド、オランダ、ベルギー、ロシア、イスラエル、ニュージーランドなどが、「定住する外国人」(二年、もしくは三年、五年以上居住する外国人)あるいは「永住資格を持つ外国人」に対して、地方選挙権と被選挙権を保障しているが(この他に、EU市民に地方参政権を付与するイギリス、フランス、ドイツなどがある)、これまでアジアにおいては皆無であったからである。

この「朗報」を私たちは、日本や韓国の報道機関からではなく、韓国政府の「返書」(七月五日付、後述)から知ることになった。

2 一九歳も外国人も

今回の公職選挙法改正の中心は、地方自治体の首長・議会議員選挙における比例代表制の導入にあったが、この大改正の中に、投票資格年齢の二〇歳から一九歳への引き下げと、外国人選挙権がしっかりと盛り込まれていたのである。

その「改正」条文は、次のようになっている。

  

「第一五条(選挙権)第二項 次の各号にいずれか一に該当する者は、その区域で選挙する地方自治団体の議会議員および長の選挙権がある。

  • 1 (略)
  • 2 「出入国管理法」第一〇条(在留資格)の規定による永住の在留資格取得日後三年が経過した一九歳以上の外国人で……選挙人名簿作成基準日現在、「出入国管理法」第三四条(外国人登録票等の作成および管理)の規定により当該地方自治団体の外国人登録台帳に登載された者」

この改正によって韓国では、二〇〇六年五月に実施される統一地方選挙において、在韓華僑をはじめ永住資格を持つ外国人が一票を投じることができるようになったのである。

なお、韓国で永住資格取得制度が施行されたのは二〇〇二年六月からであり、実際に投票できる外国人、すなわち永住資格を得て三年になる一九歳以上の外国人は、およそ一万人とみられる(二〇〇四年末現在の永住資格取得者は、台湾一万五〇〇人、日本六七人、米国一三人、その他二五人)。

3 「民主主義」実現の着実な歩み

韓国は「民族分断」の桎梏にあり、その一方で急速な「経済発展」を遂げつつある。その中で、さまざまな深刻な社会矛盾を抱えている。移住労働者に対する人権侵害、「帰国」した中国の朝鮮族に対する政策の不在……など、韓国の人権NGОが告発する問題群がある。

私たちは二〇〇四年一一月、在日二世の金敬得弁護士らとソウル・明洞にある華僑総会を訪ねた。そこで私たちが聞かされたのは、韓国における「はなはだしい華僑差別」の実態についてである。このことは、これまで韓国においても「問題」とされてきた。

「韓国でこの間疎外されてきた特殊な少数者として、華僑がいる。旧韓末から中国山東省付近から入ってきて定着したとされる華僑は、一時(朝鮮半島全体で)二〇万余人に達したが、現在は(韓国内で)二万二千余名に過ぎないほどに減った。……その理由は、最近まで華僑に対して、韓国政府が基本権をひどく規制する政策をとってきたためである。……韓国語を事実上母語として使用し、政府に税金を出し、韓国人とまったく同じように経済生活をする華僑に対するこのような有形無形の差別は、民主主義に反するものである」(李錫兌「韓国の民主化と外国人の人権」)。

しかし、いま韓国において、このような過酷な差別の現実を克服していこうとしていることも、私たちは強く印象づけられた。

二〇〇一年一一月、韓国国会で激論の末、国内人権機関として「国家人権委員会」が誕生した。この人権委員会の目的は、「すべての個人がもつ不可侵の基本的人権の保護と水準の向上」にあり、韓国が加入している国際人権諸条約の国内履行にある。そして、既存の権力機関を牽制・監視できるように、立法・司法・行政府のどこにも所属しない独立機関となっている。人権委員会が対象とするのは、「国民」および「大韓民国の領域内にいる外国人」すべての人権侵害に対してである。私人間はもちろん、警察や出入国管理局、刑務所、企業などあらゆる組織に対して、法律や政策、運営面で人権侵害がないか実態調査をし、調停・勧告・救済を行っている(柳時春「韓国における国家人権委員会の機能と役割」、二〇〇三年一〇月二一日・外登法問題国際シンポジウム講演原稿)。

二〇〇四年七月、韓国で「住民投票法」が施行された。そこでは定住外国人、すなわち「二〇歳以上の外国人で、出入国管理関係法令の規定により、大韓民国に継続して居住することができる資格を備える(在留資格変更許可または在留期間延長許可を通して継続して居住することができる場合を含む)」者に対して、住民投票の請求権と投票権を認めている。これに基づいて各地方自治体では「住民投票条例」を定め、二〇〇五年七月、済州島で実施された住民投票においては「華僑島民」が初めて一票を投じた。

一九七〇年代以降の熾烈な闘いによって民主化をかちとった韓国では今、「民主主義の果実」を韓国社会の被差別者・マイノリティ(少数者)が享有すべく、国内人権機関を創設し、住民投票における定住外国人の請求権・投票権を保障し、さらに今回、永住外国人への地方選挙権付与を実現したわけである。すなわち、「すべての者の民主主義」を確立するために、人権保障と社会参加システムを、着実に構築しようとしているのである。

4 日本の寒々とした現実

一方、日本においては、国内人権機関も、定住外国人の地方参政権も、実現しようともしていない。

いま日本には、二〇〇万人以上の外国人が暮らしている。そのうち、在日コリアンなど「特別永住者」が四七万人、「永住者」が三一万人、「定住者」が二五万人、「日本人の配偶者等」が二六万人、「永住者の配偶者等」が一万人となり(二〇〇四年末・外国人登録者数)、日本に生活の本拠を置く「定住外国人」は、少なくても一三〇万人以上になる。

また、二〇〇二年一月の滋賀県米原町の住民投票条例を嚆矢として、永住外国人などに住民投票における投票権を認める条例を制定した自治体は、すでに一九四となる(二〇〇五年六月現在)。さらに二〇〇二年八月、埼玉県草加市は永住外国人に地方参政権を開放することを「特区」として申請し、その後も広島県三次市、京都府京丹後市が相次いで同様の申請をした。しかし、いずれも政府の認可を得るには至っていない。

二〇〇五年四月五日、在日する三三カ国・一四七人の「多国籍・多民族市民」が連名で日本の国会議員に提出した共同声明には、こうある。

「日本に永住・定住する私たちは、すでに長期にわたって日本で生活し、また今後も日本で暮らすことになります。私たちは、世界の民主主義諸国ですでに実施されている定住外国人の地方参政権を、この日本においても実現することを願ってきました。最高裁は一九九五年、立法措置により定住外国人に地方参政権を付与することは憲法違反ではないと判示し、私たちの願いが決して実現不可能ではないことを確信しました。……私たちは、地域社会において「住民」として住民自治・地方自治に参加し、地域社会の発展に貢献したいと願っています。私たちが地域社会の構成員として認められることは、日本社会が本当の意味で「国際化」されることであり、「多民族・多文化共生社会」実現へと向かうことだと確信します。私たちは、定住外国人に地方参政権が保障されることを強く求めます」

このように日本では、「多国籍・多民族化」が進行しており、地域社会においても「外国人市民代表者会議」(神奈川県川崎市)など、外国人の住民自治・地方自治への参画が始まっており、地方参政権を求める声が強まっている。

しかし、それにもかかわらず、国会では一九九八年以降、外国人地方参政権法案が提出-廃案を繰り返している(年表参照)。

5 「在日-韓国-日本」をつなぐ取り組み

日本人と在日コリアンとの共同作業として始められた「定住外国人の地方参政権を実現させる日・韓・在日ネットワーク」(共同代表:田中宏/内海愛子/朴慶南/金敬得)は、二〇〇四年一一月、東京とソウルでシンポジウムを開催した。このシンポジウムでの講演原稿に加筆したものが、第1章~第7章の論稿である。

私たちはまた、ソウルで大統領府、行政自治部、各政党へロビイングを行った。そして二〇〇五年六月一四日には、日韓首脳会談に向けて、小泉純一郎・日本首相と盧武鉉・韓国大統領あてに要請書を送った。

「韓国において住民投票法が制定されたことは、定住外国人の地方選挙権の実現が、法理的にも現実的にも何ら支障がないことを示すものであり、来年(二〇〇六年)に予定されています統一地方選挙には定住外国人も一票が行使できるように願うものです。日本における地方参政権運動の進展、韓国における住民投票法の制定は、社会的成熟と民主化の進展の結果、定住外国人の人権問題がクローズアップされるにいたった社会的状況を背景とするものです。このような社会状況は、日本、韓国に特異なものではなく、多少の差違はあっても東アジアの普遍的な状況となりつつあり、近い将来において、東アジアの共通課題として浮上することでしょう」

私たちのこの要請書を、日本政府は無視した。しかし、韓国政府からは、次のような「返書」が届けられた。

  • 「送信者:(韓国)中央選挙管理委員会
  • 題 目:民願に対する回答
  • 1 貴下から大統領秘書室に提起された民願が、私ども委員会に移行されましたので、次の通り回答します。
  • 2 定住外国人選挙権付与と関連して……一九歳以上の外国人に地方自治団体の議会議員および長の選挙権を付与する内容の公職選挙法改正案が二〇〇五年六月三〇日、国会を通過したことをお知らせします。
  • 中央選挙管理委員会委員長」

私たちの要請書を握りつぶした日本政府と、私たちの要請に誠実に応えてくれた韓国政府――。この隔たりにこそ、日本国民自身が怒らなければならないのである。

韓国において近年、「ウトロ」(京都府宇治市にある在日コリアン集住地域の立退き問題)や、「枝川」(東京都江東区にある朝鮮初級学校の立退き裁判)が、マスコミや国会で取り上げられるようになった。それでも、韓国社会の「在日同胞」に対する認識の多くは、ステレオタイプ化されたものであり、日本社会のそれと大差ないと言えるだろう。

しかし、韓国にあって日本にないものは――、国内人権機関や外国人参政権の実現ということに示される、不条理な現実を正そうとする市民社会の強靭な「意志」であり、また「日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会」の設置など、困難な作業であるにもかかわらずあくまで歴史の真実を究明していこうとする強固な「姿勢」である。

韓国国会において二〇〇三年一二月、住民投票法が審議されたときも、二〇〇五年六月、改正公職選挙法が審議されたときも、外国人への投票権付与に対して、ほとんど異論が提起されずに可決されたという。その背景の一つには、日本での「在日同胞の闘い」の正当性があったからである。

そして今度は、韓国からの「新しい風」が、日本における参政権獲得運動を加速させてくれるだろう。

二〇〇一年九・一一以降、憎悪と敵意、戦争と報復が世界を席巻し、「テロ対策」の名の下で外国人や民族的・宗教的・言語的マイノリティがスケープゴートにされ、国家権力機関の連合による民衆監視システムが構築されようとしている。さらに日本では、二〇〇二年九・一七(日朝首脳会談)以降、排外主義と軍国主義化が加速されている。

このような中で、日本と韓国の社会――自国民および外国籍住民で構成される「市民社会」相互において、課題の「共有」と、それぞれの闘いの「連携」が、ますます必要であり、重要になってきたのである。


◆田中宏・金敬得編『日・韓「共生社会」の展望』(2006年2月、新幹社)より

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