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岡崎  勝彦 さん
「外国人の地方参政権ー地方自治体における外国人の政治参加ー」

<プロフィール>
岡崎 勝彦さん
愛知学院大法科大学院教授、主な編著書に『現代行政法入門』(法律文化社)
『外国人の公務員就任権』(地方自治総合研究所)など。

はじめに―問題の所在

(1) わが国の外国人登録者数は(三ケ月以上の在留)、一九九二年末、初めて総人口の一%を超えて一.〇三%、一二八万一,六四四人に達し、前回調査時(九一年六月末)に比し、一万九,八二八人、一.五七% 増となるに至った。しかし、公職選挙法(以下、公選法)や地方自治法(以下、自治法)が参政権を「日本国民」に限っており、これらの人々には、選挙権、被選挙権がないことになっている。同様に、自治法に定める条例の制定改廃、事務監査、議会解散、首長・議員らの解職請求権もない。このことから、参政権と連動する民生委員(民生委員法八条三)、人権擁護委員(人権擁護委員法六条三)についても同様である。他にも都道府県公害委員、教育委員、などがあり、これらの委員等は多分に名誉職的な性格を有するが、地方参政権を有しないものにとっては、このような名誉職的公的地位について、はじめから排除されているのである。又、一部の自治体を除き地方公務員や教員への採用の道も制限されている[1]

ところが一方で、住民税等の納税義務は日本人と同等に負っており(自治法一〇条二項・二二三条等参照)、「政治改革」がらみで検討されている政党への公費助成が実現すれば、参政権はないのに納税を通して政党への助成金を負担させられるという矛盾が生じることにもなるのである。外国人からの公選法が禁じる「寄付」でなければよいということなのであろうか(公選法二二条の五参照)。

(2) ヨーロッパでは、たとえば、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーが「三年以上の居住を条件に、地方選挙権を一八才以上の全外国人に与えている。オランダも五年以上、アイルランドは六ケ月在住を要件としている。フランスはフランス生まれのアルジェリア人(二世)は、フランス国籍を付与(アルジェリアとフランスの二重国籍)すると同時に、全ての選挙権を保障している。また、一九八五年の北フランス・モンパール市議会選挙で、外国人準議員が三人当選している(準議員とは採決権のみなし)[2]

ドイツでも、ハンブルグ市やシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州が外国人の地方参政権を認めるべく選挙法を改正し、その是非が連邦憲法裁判所で争われた。同裁判所が、九〇年に「違憲」と判断したものの、九二年末、欧州連合の設立にかかわるいわゆるマーストリヒト条約批准の前提として、連邦政府は基本法を改正し、EC加盟国の国民についてのみ、郡および市町村の参政権を認めるに至った。なお、フランスの事情については別稿(大山)参照。

(3) わが国にあっては、近時、在日韓国・朝鮮の人々(以下、韓朝鮮人)を中心に国政選挙をも対象とするものをも含め、参政権を求める訴えが四件も提起されている。九三年二月、まず、国政選挙について、「国会議員の選挙権を有する者を日本国民に限っている」公選法九条一項は、「憲法一五条、一四条の規定に違反するものではない」という最高裁判決に続き、同年六月、地方参政権につき、大阪地裁もまた、「日本国籍を有しない定住外国人については、右権利を憲法が保障していると認めることはできない」として請求を棄却した[3]。なお、注目すべきことに、憲法上、「仮に右の者に参政権を採り得るとしても、これを付与することが憲法に違反しないとの立場を採り得るとしても、これを付与するか否かは立法政策の問題にすぎない」と判示したことは、定住外国人に地方参政権を認めるかどうかについて、立法府の裁量に委ねるとの判断を示したことである。これら参政権要求の動きが第二次大戦直後の政治的スローガンとしてのそれではなく、「創造的な『共生』の主体としての韓朝鮮人のあり方を追求する延長線上」において、この地方参政権要求を“戦略的人権擁護運動”として位置づけているところに今日の大きな特徴があるといえる[4]

一方、九二年七月の参院選を契機にブラジルやペルー等からの二重国籍を保有する日系出稼ぎ労働者の参政権問題が浮上した。それというのも、九一年六月の「出入国管理及び難民認定法」の改正により、これら日系人は、三世まで三ケ月以上の就労可能な在留資格が与えられたことにある。それに伴い公選法上の規定により、自動的に被選挙権を含め国政及び地方の参政権が付与されることになった。これすなわち、二世・三世の日系人は、在外をも含め本国と日本の双方で参政権を行使できることになったのである。かの八五年の国籍法の改正による父母両系主義の採用がわが国における新たな二重国籍発生の契機となったように、この措置もまた「二重市民権排除原則」を掘りくずすものとなったのである。

以上のとおり、内外ともに「外国人」の地方参政権をめぐる状況は、今日、かってなく時代的要請となってきたといえよう。そこで本稿では、「外国人の地方参政権」をめぐる諸問題について、日本と同様に、その国籍の所在について血統主義を採るドイツの事例をも参考としつつ、定住外国人の地方自治体における政治参加に即して明らかにすることを目的とする。そのための課題として、まず、「外国人の地方参政権論」の現状を触れた後、次に、「外国人の地方参政権をめぐる憲法構造」について、その各種法構造を検討する。

一 外国人の地方参政権論の現状

今日、選挙権・被選挙権などの固有の意味の参政権については、国民主権原理に基づいて、これを日本国民に限るという主張が支配的である。但し、地方参政権については大きく意見の分かれるところである。本稿の目的である地方参政権のあるべき保障内容を検討するに際して、「地方参政権論」に関する内外の状況をみておくことにする。まず、その前提となる参政権法制については以下のとおりである。

1 選挙法制

(1) 憲法は、その前文および第一条において主権が国民に存することを確認する。そして「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」ものとし(同一〇条)、その具体化を国籍法に委ねている。従って、外国人とは日本国籍を有さないもののことである。公務員選定罷免権は「国民固有の権利である」(同一五条)と定め、その際、国政に関しては、同第四四条において「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める」ものとし、公選法にそれを委ねている。憲法は、地方自治制度の保障を「地方自治の本旨」(同九二条)に基づくものとし、その長および議員、並びに「法律の定めるその他の官吏は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する」(同九三条二項)ものとする。

(2) 地方自治法は、第一〇条第一項において「住民」たる要件を外国人も含め「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」と規定し、これをうけ同条第二項は、「住民はその属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分担する義務を負う」とも規定する。これを要するに、地方自治の本旨に基づき、「住民は、地方公共団体の単なる人的構成要素であるにとどまらず、地方自治=住民自治の主体たる地位を有しているところに重要な意味がある」のである[5]

しかし、地方参政権の付与となると同法第一一条は、「日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の選挙に参与する権利を有する」と規定し、ここでの住民について、日本国民たる住民とするのみで、「外国人たる住民」あるいは、「定住外国人」等の外国人類型の具体化にまで及んでいない。同様に、「日本国民たる」住民は、同法第一二条において条例の改廃請求権および事務の監査請求権、同第一三条において、議会の解散請求権および解職請求権を有するものとする。

地方選挙を具体化する規定として、まず、議会の議員および長の選挙につき、同法第一七条が「別に法律の定めるところにより、選挙人が投票によりこれを選挙する」ものとし、公選法にその詳細を委ねている。

次に、選挙権については、同自治法第一八条において、「日本国民たる年齢二十年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を有する」と定める。被選挙権についても、同第一九条は、「別に法律の定めるところにより」、①議会の議員につき、同条第一項が「議会の議員の選挙権を有するもので年齢満二十五年以上のもの」、②都道府県知事につき、同条第二項が「日本国民で年齢三十年以上のもの」、③市町村長につき、同条第三項が「日本国民で年齢満二十五年以上のもの」と定める。従って、②と③については、日本国民であれば「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有」さなくてもよいことになる。

ここでも、「日本国民たる」有権者の選挙権、被選挙権の各種要件を規定するのみで、「外国人たる」有権者の在留資格、居住歴、在留歴等の各種要件について定められていない。なお、国政における選挙人の要件については、前述のとおり、憲法第四四条により、公選法に委任されているが、地方選挙におけるそれは憲法上の直接の規定によらず、自治法および同法の委任による公選法が詳細を定める事になっている。

(3) 公選法は、選挙権に関して、第九条が国政につき「日本国民で年齢二十年以上の者」(同条一項)と定め、地方選挙についても、自治法第十八条と同旨の規定をおいている。被選挙権に関しても、第十条が「日本国民は、・・・それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する」ものとし年齢等の各種要件を定め、同第一一条が禁治産者等の各種選挙権資格欠格事由を挙げているにすぎない。そして、同第二一条第一項はなおも住民基本台帳に基づく「選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民」と定めることにより、国籍要件を課しているのである。

2 地方参政権論

(1) 否定説  学説の多数を代表するものであるが、概略すれば次のとおりである[6]。①国会議員の選挙権(憲法一五条一項)と地方議会議員の選挙権は、ともに国民主権条項(同一条)から直接派生する。②一五条一項における「国民」と九三条二項における「住民」とは全体と部分の関係にあり、両者は質的に等しいものと把握されうる。要するに、「国民」と「住民」との相違は、地域的拡がりのみにかかるものである。③前者に外国人を含ましめることが不可能である以上、後者に外国人を含ましめることも不可能である。従って、外国人の選挙権は地方議会においても認められない。

(2) 許容説(立法政策論)  今日有力になりつつある学説である。 ①一五条一項が国民主権原理(一条)から派生するものとするならば、九三条二項は、直接的には地方自治の原則(九二条)から派生するものだから、この地方自治の基本趣旨に適合するように解釈される必要がある。外国人の自治体選挙権はむしろ地方自治の理念に適合する。②ドイツのD・ブレーアの所説(「二重の正当性理論」)を参考にいう[7]。すなわち、地方自治の理念は、自治体の高権行為が国家意思と区別される「住民」意思による地域的正当性(「下から」の正当性)によって支えられることを必要とするが、外国人に選挙権を認めても、地方自治体の高権行為は法律に基づき法律の枠内で行われる以上(条例も「法律の範囲内」で制定される自主立法である)、正当性の淵源が「国民」に存するという国家的正当性(「上から」の正当性)の契機が切断されてしまうわけではないから、九三条の「住民」に外国人を含める解釈は、「国民主権原理との関係で何らの不都合も生じない」とする。③日本国憲法が一五条一項では「国民」、九三条では「住民」と表現を使い分けている[8]

(3) 要請説  国籍法や自治法、公選法の定住外国人の制限規定を違憲とするものである。①および③については、前述の許容説に同じ。但し、③につき自治法第一一条等(公選法)が日本国民たる住民と外国人たる住民とに二分していることに合理的根拠がなく、憲法第一四条の「平等原則」および「地方自治の本旨に反し違憲無効となる。②参政権の帰属主体であるか否かを決定するメルクマールは、形式的国籍要件を満たしているか否かではなく、当該社会の構成員として、その一般意思の形成に参画する適格を有しているか否かにある。なお、憲法第一五条一項は、積極的に選挙権の資格を日本国民にのみ限る趣旨に解することはできないとする[9]

3 ドイツの地方参政権論

(1) ドイツ基本法  ドイツでは九二年末現在、全人口の約一一%に当たる六百五十万人の外国人が住んでいる。その大半は、旧西独の高度成長を底辺で支えてきた「ガストアルバイター」とその子孫である。

ドイツ基本法第二〇条第二項は、「すべての国家権力は、国民(Volk)に由来する。国家権力は選挙および投票において国民により、かつ、立法・執行権および裁判の個別の諸機関を通じて行使される」と規定し、国民主権の原則を定めている。そして同法第二八条第一項第二文には、「ラント、郡および市町村においては、普通・直接・自由・平等および秘密の選挙に基づいてつくられている議会を有していなければならない」ものと定めている。しかし、これらの条項では単に「国民」というだけで、その意味内容は厳密に定められていない。そのため、「だれが国民か」ということが争点となってきた。

そこで、今回の改正により、この第二文のあとに「郡および市町村における選挙に際しては、ヨーロッパ共同体を構成するある国家の国籍を有している者も、ヨーロッパ共同体の法の基準に従って、選挙権および被選挙権を有する」というこの第三文が挿入されることになった。これをもってドイツは、ヨーロッパ共同体構成国民に対して地方参政権を保障することになったのである[10]。一方、同法第一一六条第一項は、「ドイツ人」を定義し次のようにいう。「この基本法の意味におけるドイツ人とは、法律に別段の規定がある場合は別として、ドイツ国籍を有している者、または・・・」と定めることにより、まずもって、「ドイツ人」について憲法上の明文を持って「国籍を有している者」と定めている。

(2) 連邦憲法裁判所は、九〇年一〇月、先に、シュレースヴィッヒ=ホルシュタイン州(郡・市議会)およびハンブルグ市(区議会)が改正法をもって各議会の選挙権(Wahlberechtigung)のみを認めたのに対し、基本法第二八条第一項第二文にいう「国民」の概念は、ラント、郡、市町村のどのレベルにおいても、「ドイツ人」だけであり、従って、これらの改正法は「基本法第二八条第一項第二文と相容れず無効」と裁判官全員一致の判決を下した[11]。この限りで、国民主権Volkssouveranitat)と国民と国籍とが参政権に結合するという、前述のわが国の伝統的理解と同様にドイツの支配的学説を踏襲したものである。この判断をうけ、連邦議会もまた、前述のとおり同条同項第三文の追加改正を行なった。

(3) ドイツにおける地方参政権にかかわる学説の動向もまた、選挙権を承認する者はなおも少数である。M・ツレークに代表されるように、国民の限界要件が国籍ではなく、ドイツ連邦共和国内における生活共同体及び運命共同体という領域に基づき定められるとすることにより、外国人もまたそこでの定着性を要件とする[12]。州政府側の訴訟代理人であったS・ヨルツィヒ教授もまた、自治体にとって、「国民」が代表を有さねばならないということは、「国民」にとっての単なる最低限保障であるともいう[13]。なお、前述のD・ブレーアは、連邦およびラントレベルの選挙権についてはドイツ人に限定されることを前提と するものである[14]

ここで、日本国憲法の国民主権原理との関係についてみれば、少なくともわが憲法は、「日本国民」の範囲を限定する明文規定を持たず、それを法律に委ねている。そのことは、少なくとも国民主権原理を根拠に、憲法第九三条第二項の「住民」のなかから外国人を一方的に排除することにはならない。

二 外国人の地方参政権をめぐる憲法構造

1 近時の動向

(1) 従来、国民主権下での参政権保障が国籍をもつ国民に限定されることは「当然」のこととされていたものの、その「国民主権・国民・国籍」という観念的抽象的結合自体が、今日、相対化されてきたということである。しかも、その三点セット自体の各構成要素もまた、それぞれに機能変化させられてきている。まず、国民国家として、治者と被治者の同質性のイデオロギーの下に成立した国籍を基礎とする「不可分一体性」たる国民主権原理は、国際化社会にあってその相対化を迫られている。すなわち、国籍保持者が統治の最終的決定権を求めるその限界は、那辺にあるかが現在問われているといってもいいであろう。次に、「国民」概念もまた、国家への定着が居住性、住民性へ強化されるに伴い、国民としての権利主体の多様化がみられる。たとえば、国民について当該国の①国籍保持者、②統治下に服する者、③住民としての権利主体者に分類されうる。さらに、個人の国家構成員としての地位を示すものとされる「国籍」も、当該国の管轄権、その権利主体性について、機能変化が進行するに伴い、二重国籍化を容認する傾向がみられる。その際、当事者がいずれの国を生活の本拠としているかによって国籍を認定する「実質的国籍」論もまた登場してきている[15]。又、ドイツにあっても二重国籍を認めることにより帰化をすすめ、ドイツを「支配的国籍」とし、出身国を「休止的国籍」とするアイディアも考えられている[16]

(2) 権利主体性の分類においても、近時、ようやくその在留実態に則して、「外国人」を一般外国人、定住外国人、難民の三種に区分されるようになった。ここでいう「在留実態」には、その在留原因あるいは在留の形態をも含意するものでなければならない。

(3) 従来、公務就任の制約基準とされていた「当然の法理」(「公権力の行使又は国家意思の形成への参画」)もまた、その抽象的包括的運用に対し、より具体的で個別的運用、憲法適合的運用の必要性が指摘され、「より限定的・具体的な基準」たるべく検討を要する問題となっている。少なくとも、主題との関わりにおいては、「国民主権」原理から直接派生する職務、あるいは「国家意思」形成に直接参与する職務等について具体的に検討されねばならない[17]

2 憲法構造

(1) 現行憲法構造において主題を検討する際の前提として、かのマッカーサー憲法草案第一六条には、元々「外国人は平等に法律の保護を受ける権利を有する」という規定さらに、第一三条には「法の下の平等」条項において「国籍」条項等が明記されていたものの、今日にみられる通り実定化されるに至らず、その結果生じた「法の欠缺」は、外国人の人権保障につき、その後の「憲法解釈」にゆだねられることになったのである[18]

(2) 前述のとおり、憲法は国民主権下における日本国民要件をドイツ基本法と異なり、法律にゆだねたことである(同一〇条)。ここに参政権行使における国民概念について立法政策の問題とされる所以がある。又、公務員の選定罷免権を「国民固有の権利」と定める規定(同一五条)もまた、積極的に選挙権の資格を日本国民にのみ限る趣旨とすることではなく、「最低要求」とみることもまた可能である。

(3) 憲法は、国政の選挙人資格を法律に委任し(同四四条)、公選法がそれに対応している(同九・一〇・一一条)。一方、憲法は、「住民」の選挙資格については(同九三条参照)明文および委任規定がないまま、自治法および同法からの受権により公選法が「日本国民たる」住民に限ってその要件を規定しているにすぎない。従って、「外国人たる」住民の選挙人資格について、訴訟的に難しい多くの問題点があるものの立法上の不作為という指摘も可能であろう。しかも、自治法附則第二〇条および公選法附則第三項は、その立法以来、次のような規定を設けている。すなわち、「戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間、停止する」(以下「附則」という)ものとし、今日では、さしずめ、戸籍法の適用のない皇族がその対象とされるにすぎないものとされている。

しかし、その立法趣旨は、「終戦後平和条約発効までの間において、理論的には日本国民でありながら、事実上外国人となった朝鮮人、台湾人、樺太人について、選挙権、被選挙権を排除するためのものであったが(昭二〇、一二、一九内務次官通牒)、平和条約発効後」、「理論的にも外国人」となったのだから、従って、この附則の「意義は、大半失われてしまった」というものである[19]。それでも同附則は、一九五二年の平和条約発効時までの間、在日の「日本国民たる」韓国・朝鮮人等の旧植民地人に対する選挙権停止条項であったということを想起しておかねばならない。

以上の検討を踏まえて、若干の私見を次に整理しておくことにする。

3 地方自治制度と参政権保障

(1) 前述のとおり、「主権・国民・国籍」の三点セットの絶対的観念的結合の相対化と各構成要素の機能変化を前提とするにしろ、なおも現実の国際社会が単一の「国民」(単一の民族社会ではなく)主権国家の集合体であることに鑑みるならば、国籍概念を基礎とする国民主権国家のもとで、外国人をも含め当該政治共同体における政治決定に服さなければならない共同体各構成員が同共同体の運営に当たって、そこでの主体(治者)と客体(被治者)との一致の確保が真に可能となる理論構成について検討すべきであろう。

(2) わが国の憲法が定める統治体系の下、連邦制ではない中央集権統一国家において地方自治の保障があるということは、その限りにおいて国民・住民がその人権保障のための二重の統治体系をもつことを意味する。すなわち、国の統治体系による保障と地方自治による保障とである。これを団体自治的側面について見れば、地方自治の保障を受ける国民・住民の属する「地方公共団体」と国とは、その限りにおいて、かってのごとく、後者による後見的監督関係ではなく、民主主義の叡智として、相互の矛盾・対立を克服することを前提に、独立・対等の関係に立つのであり、住民自治的側面より見れば、住民意思が可能な限り、当該「地方公共団体」の組織・運営に反映すべきことが原則とされる。ここでの住民概念に「生活の本拠を有し、かつ永続的に居住する意志を有する定住の外国人」[20]、すなわち、納税義務を果し、生活関係において地域共同体と密接な関係を形成しているこれらの人々を、少なくとも基礎的自治体である市町村の有権者として認めることは、前述のD・ブレーアの「二重の正統性理論」に照らしても、わが憲法もまた立法政策上許容するものと思われる。その際、憲法第九三条の「住民」には、かかる外国人(定住)もまた包含するという理解を前提とした上でのことである。

(3) さて、この定住外国人に類型化されるものの、在日韓朝鮮人等の旧植民地を出身とする人々は、その在留原因の歴史的深刻さに起因することによる、その国籍問題とのからみで、この参政権をめぐる状況もまた複雑である。たとえば、この間の経緯については、別途検討するものの、先の「附則」導入直前までの内務省原案では、従来通り認めて差し支えないというコメントの下で、「内地在住の朝鮮人、台湾人も選挙権を有するものとする」と定められていた[21]。あるいは、五二年の平和条約締結時に確定されるべき国籍の所在も、また一片の民事局長通達(一九五二年四月一九日民事甲四三八)によって、選挙権を認めないまま、一方的に喪失せしめられている[22]。これら「定住外国人」は、まさに日本政府による一方的な政策の結果として、「日本国民であった者」あるいは「日本国籍を失った者」なのである。すなわち、この人達の存在は「戦争責任」の未解決の部分である。ようやく、このほど(九一年三月)「入管特例法」により、同じ歴史的背景をもつ朝鮮および台湾の出身者がはじめて一本化され、三世以降にも「特別永住」が認められることになった。このような人々の参政権保障については、一方で各選挙法規の運用と執行を司る行政府局を相手に、自治法(一一・一二・一三・一八条・一九条三項)や公選法(九条二項・二一条)の関連条文の違憲・無効論が論じられているものの、他方で、前述したこの間の「立法上の不作為」につき、立法府に対して、違憲もしくは損害賠償請求あるいは地域によっては、条例による参政権の付与もまた論理的には可能と思われる[23]

(4) 論者によっては、参政権の内、選挙権のみについては容認するものの被選挙権については消極的論者もみられる。しかし、この主張には組することは出来ない。たとえば、自治法第九四条によれば、町村において条例で「議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」旨規定して、町村総会制を認めている。町村総会は、選挙権を有する者の全員によって組織されるもので、選挙権を有する者によって選ばれる議員によって組織される議会に比べて、「より高い程度において『地方自治の本旨』に適合すると考えられる」[24]。すなわち、選ぶ者と選ばれる者との一体性に「地方自治の本旨」が求められるからである。

(5) 被選挙権が容認されても、合議制議会を構成する議員と独任制の執行機関たる首長と区別する議論も可能であろう[25]。とくに、首長は、一方で機関委任事務を担当する国の機関でもある。この際、いわば上下の階層的原理と地方自治原理の矛楯衝突が生じたとしても、前述の叡智の一環として自治法第一五一条の二にいう職務執行命令訴訟制度の導入が、独立第三者たる裁判所の公正な判断を介在せしめることによってこの二つの原理の矛盾を調整することを予定しているのであるから、首長もまた可能であると思われる。

おわりに― 残された課題

第一に、参政権行使の対象として問題とすべきは、まず、その主体となるべく一般的に論じられている「定住外国人」概念を明確にすることである。その上でなおも、地方参政権の保障対象となり得る者の分類の要・不要の問題が生じよう。次に、地方参政権保障の客観的対象として自治法にいう解職等の直接請求制度や憲法第九五条がいう「特別法の住民投票」制度等への参加の可否の問題がある。

第二に、参政権行使の範囲として問題とすべきは、さしあたり、本稿では市町村における参政権に限ったものの、都道府県レベルの問題が残されている。

第三に、参政権行使の限界の問題として、今後国政レベルもまた問題とされるであろうが、それをも含め、外国人の参政権保障の限界もまた検討されなければならないのであろう。たとえば、憲法制定権力とのかかわりで憲法改正権の行使や前述の「当然の法理」の運用基準にみられる「直接」性の内容もまた検討されなければならないであろう。

以上のとおり、参政権行使の対象・範囲・限界等につき、総合的にみる上でなおも必要な課題は、参政権行使の前提ともなりその保障ともなる、政党活動をはじめとする外国人の政治活動の法的性格を今日、あらためて究明しておかねばならない[26] 


  • [1]拙稿「外国人の法的地位に関する一考察」法政論集第七五号(一九七八年)一七九頁以下、同「公務員への外国人採用」青鶴第三号(一九九〇年)一頁以下参照
  • [2]ヨ-ロッパ諸国における外国人選挙法制については、K.Sieveking /K.Barwig /K.Lorcher/C.Schunmacher(Hrsg.) ,Das Kommunalwahlrecht fur Auslander, 1989.S.331ff. また、Speyer Hochsshule スタッフによるドイツ連邦裁判所へのヨ-ロッパ諸国(ベルギ-、フランス、ギリシャ、アイルランド、イタリヤ、オランダ、オ-ストリア、ポルトガル、スイス、デンマ-ク、スペイン、トルコ、アメリカ、イギリス)における地方参政権保障の現状をまとめた鑑定書が便利である。Antrage des Bundes verfassungsgerichts zum Verfahren uber  den Antrag, das schleswig-holsteinische Gesetz zur Anderung des Gemeiade-und Kreiswahlgesetzes vom 21.Februar 1989 fur nichtig zu erklarn (Zusamnenfassender Priv-Doz.Dr.Beyerlin)、 徐龍達編『定住外国人の地方参政』日本評論社一九九二年一二九頁以下参照。高橋洋「外国人の参政権について」鹿児島県立短期大学商経論叢四〇号(一九九一年)六一頁以下参照
  • [3]最高裁平成五年二月二六日第二小法廷判決、判例時報一四五二号(一九九三年)三七頁、判例タイムズ八一二号(一九九三年)一六六頁。判評、大石眞「定住外国人と国会議員の選挙権」ジュリスト平成五年度重要判例解説(一九九四年)一六頁。大阪地裁平成五年六月二九日判決、判例タイムズ八二五号(一九九三年)一三四頁。判評、中村睦男「外国人の地方参政権」ジュリスト一〇三六号(一九九三年)九五頁、向井久了「定住外国人の地方参政権」ジュリスト平成五年度重要判例解説(一九九四年)一八頁以下参照
  • [4]前掲『定住外国人の地方参政権』七頁以下、拙稿「定住外国人と地方参政権」徐龍達先生還暦記念委員会編『アジア市民と韓朝鮮人』日本評論社一九九三年六七二頁以下参照
  • [5]三橋良士明「住民」室井・兼子編『基本法コンメンタ-ル地方自治法』日本評論社一九九二年三七頁
  • [6]さしあたり、宮沢俊義『憲法Ⅱ〔新版〕』有斐閣一九七一年二四二頁、小島和司『憲法概説』ぎょうせい一九八九年一五六頁、橋本公旦『日本国憲法〔改訂版〕』有斐閣一九八八年一三〇頁、伊藤正己『憲法〔新版〕』弘文堂一九九〇年一九七参照。なお、これら否定説は、当然に国政における選挙権を容認するところではない
  • [7]D.Breer,Die Mitwirkung von Auslandern an der politischen Willensbildung in der Bundesrepublik Deutshland durch Gewahrung des Wahlrechts, insbesondere des Kommunalwahlrechts,1982,S.78ff.
  • [8]長尾一紘「外国人の人権 ─選挙権を中心として」芦部編『憲法の基本問題』有斐閣一九八八年一七七頁、前掲徐編『定住外国人の地方参政権』六四頁以下が論点整理に適切である。そこでは、「地方議会議員選挙に外国人を参加させることは、日本国憲法の許容するところであり、その当否の判断は、国会の裁量に委ねられている」ものとし、なおも被選挙権は容認するところではない。市町村レベルにつき、佐藤幸治『憲法〔新版〕』青林書院一九九〇年三八二頁、芦部信善『憲法学Ⅱ人権総論』有斐閣一九九四年一三二頁参照。地方自治体における被選挙権も含めることについては、中村睦男『論点憲法教室』有斐閣一九九〇年七〇頁、樋口陽一『憲法』創文社一九九二年一七七頁参照
  • ちなみに、国政レベルをも理論的対象とするものに、奥田劍志郎「外国人の法的地位」社会労働研究二七巻二号(一九八五年)一七七頁以下、萩原重夫「憲法上の権利と内外人平等原則」愛知県立芸術大学紀要一七号(一九八八年)四九頁以下、吉田善明『日本国憲法論』三省堂一九九〇年二四一頁以下、高田篤「外国人の選挙 ─ドイツ連邦憲法裁判所違憲判決の論理」法律時報六四巻一号(一九九二年)八三頁以下、萩野芳夫「外国人の定住と政治的権利」前掲徐編『定住外国人の地方参政権』一〇五頁以下、奥平康弘『憲法Ⅲ』有斐閣一九九三年四九頁以下、浅野一郎「外国人の選挙権」関東学園大学法学紀要第六号(一九九三年)二〇一頁以下参照
  • [9]相馬達雄「定住外国人と地方自治への参政権」創立二〇周年記念論文集発刊部会編『法学の諸課題』大阪経済法科大学出版部一九九二年一七一頁以下参照。なお、国政レベルの参政権についても、「国民主権」の「国民」を国籍ではなく生活実態によって判断すべきとする見解として、浦部法穂「憲法と『国際人権』」国際人権一号(一九九〇年)二七頁、渡辺久丸「『外国人の人権』と日本国憲法─とくに定住外国人の参政権に限定して─」島大法学第三六巻四号(一九九四年)六二頁以下参照
  • [10]Ralf Roger Der neue Artikel 28 Absatz 1 Satz 3GG/Vorlaufiger AbschluB der langjhahrigen Diskussion um ein Kommunalwahlrecht fur Auslander, Verwaltuagsrundschau5-5,1993,137ff. 初宿正典「ドイツ統一後の基本法の改正について」ジュリスト一〇二三号(一九九三年)九五頁以下参照
  • [11]BVerfGE 83,31;83,61,; DOV 1991,S.67ff;69ff.; NJW 1991,159ff,162ff. 葛奉根「ドイツ連邦共和国基本法における外国人の選挙権」同志社法学四一巻六号(一九九〇年)三〇頁以下、前掲高田「外国人の人権」八三頁以下、宮地基「外国人の選挙権をめぐる憲法上の論点について ─ドイツにおける学説、判例の検討を中心として─」神戸法学年報第七号(一九九二年)二三九頁以下、山口和人「外国人の選挙権」調査と情報、五九号(一九九一年)一頁以下、広渡清吾「ドイツにおける外国人の地方参政権」前掲徐編『定住外国人の地方参政権』一六八頁以下、仲哲生「ドイツ連邦共和国における外国人の選挙権」高知短大社会科学論集第六三号(一九九二)四七頁以下、古野豊明(解説)・自治研究六九巻三号(一九九三年)一三〇頁以下参照
  • [12]Manfred Zuleeg Grundrechte fur Auslander Bewahrungsprobe des Vesfassungsrecht, DVBI 1974,S.341ff.; Zur staatsrechtlichen Stellung der Auslander in der Bundesrepublik Deutschland, DOV 1973 S.361ff.; ders., Zur statsrechtlichen Stellung der Auslander in Bundesrepublik  Deutschland DOV 1973,S.361ff.; Helmut Rittstieg, Wahlrecht fur Auslander, Verfassungsfregen der Teilnahme von Auslander, an den Wahlen in Wohngemeinde ,1981,S.69.
  • [13]シュミット・ヨルツィヒ(Schmidt Jortzig)キ-ル大学教授が一九九〇年一〇月一日に憲法裁判所に提出した合憲理由書の一二頁以下参照。H.Rittstieg, Kommunales Wahlrecht fur Auslander, Krtische Vierteljahrschrift fur Gesetzgebung und Rechtswissenschaft 1987 S.316.
  • [14]D.Breer, a.a.O.S.92ff.ドイツの事情については、さしあたり、前掲仲哲生「ドイツ連邦共和国における外国人の選挙権」、前掲宮地基「外国人の選挙権をめぐる憲法上の論点について」参照
  • [15]芦田健太郎『永住者の権利』信山社一九九一年七三頁以下参照
  • [16]Christoph Schumacher / Klaus Barwig, MehrstaatigkeitNeuere Entwicklungen im Bereich des Europarats,ZAR,1/1989,S.14ff.vgl.Siegfried Wissner Die Funktion der Stastsangehorigkeit, 1989. この間の事情につき、広渡清吾「ドイツの外国人問題と国籍」百瀬・小倉編『現代国家と移民労働者』有信堂高文社一九九二年三九頁以下参照
  • [17]さしあたり、前掲拙稿「公務員への外国人採用」二〇頁以下参照
  • [18]前掲奥平康弘『憲法Ⅲ』五一頁参照
  • [19]浅野大三郎・吉田弘正『逐年解説公職選挙法』政経書院一九八五年五六頁
  • [20]横田喜三郎「外国人の地位に関する総合研究(1)」日本管理法令研究一四号(一九四七年)一二頁
  • [21]地方自治研究資料センタ-編「戦後自治史Ⅳ(衆議院議員選挙法の改正)」一一頁『戦後自治史第二巻』文生書院一九七七年所収。朝日新聞一九四五年一〇月一四日、二一日付参照
  • [22]この間の事情につき、さしあたり、前掲拙稿「定住外国人と地方参政権」六八〇頁以下参照
  • [23]門田考「地方自治における外国人の参政権 ─外国法との対比で─」国際人権三号(一九九二年)一三頁以下参照。近時、政府に対し、「定住外国人に対する地方選挙への参政権など、人権保障の確立に関する要望決議」が岸和田市議会をはじめとして、地方議会レベルでの決議が増加している。資料として、季刊 Sai 9号(一九九三年)一八頁以下参照
  • [24]宮沢俊義〔芦部補訂〕『全訂日本国憲法』日本評論社一九七八年六五頁参照
  • [25]この論点を整理するものに初宿正典「外国人と憲法上の権利 ─とくに定住外国人の《参政権》を中心として─」法学教室一五二号(一九九三年)四九頁以下参照
  • [26]鈴木隆「ドイツにおける外国人の政治的権利─憲法の権利の享有主体性─(一)、(二)・完」早大法研論集第六四,六五号(一九九二、三年)八七頁以下、一四一頁以下参照。藤本富一「外国人の政党活動 ─試論」粕谷・向井編『佐藤攻先生喜寿記念現代憲法 の理論と現実』青林書院一九九三年九八頁以下、拙稿「在日外国人の政党活動の法的性格─外国人の政治活動に即して」自治研島根三〇二号(一九九四年)一頁以下参照。

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